※本稿では『ファイアーエムブレム』を『FE』、『ファイアーエムブレム無双』を『FE無双』としています。

目指していた『FE無双』の完成形になっていると思います

『FE無双』におけるクロスオーバーの意味

─ 『FE』の開発元であるインテリジェントシステムズ(以下イズ)さんとのやりとりはどんなものがありましたか?
臼田キャラクターのセリフはキャラの掛け合いだったり、絆会話と呼んでいるものもすべてイズさんに監修をしていただきました。
早矢仕フルボイスということもあって、ものすごく膨大な量なんです。
─  絆会話はストーリー進行とは別に展開するんですか?
早矢仕 別です。このキャラとこのキャラを出していると仲良くなって、そのご褒美としてストーリーとは別の会話が発生します。
─ そうなると、ストーリーにしばられない自由な物語をそこで描けるわけですか。
臼田はい。うちのライティングチームももちろん『FE』が好きな人間たちなので、そこでもどんどんねじこんでくるんですよ。このキャラとこのキャラが仲良くなっていくわけだから! とか言って(笑)。
早矢仕 やっぱり原作も支援会話がうれしいというのがありましたので、会話は絶対に力を入れようと思ったんです。任天堂さんもイズさんも快諾してくれたので、最初は全キャラ全組み合わせの絆会話を出しましょうって提案しました。ただ、そうしたら開発不可能な天文学的な数字になってしまって(笑)、最終的にはこのキャラとこのキャラはあるとうれしいねというものを入れることになりました。そのぶん、1つ1つ力が入っています。
─ 作品間を越えて絆会話が発生すると思っていいんですよね?
早矢仕臼田(同時に力強く)それをやらなきゃ意味がない!
一同 (笑)
臼田クロムとマルスでいえば、クロムはあの伝説の英雄王と言われていたマルスと出会うわけです。そうしたらどういう話をするのかって気になりますよね。
─ すごく気になりますけど、作成は大変そうだなぁとも思いました。
臼田なかなか難航しました。例えば『覚醒』や『if』で何か変なことを話してしまうと、結婚相手が確定してしまう可能性がありますよね。やはり原作はユーザーそれぞれの遊び方が違うので、そこはイズさんと相談しながら慎重にすすめていきました。イズさんのご協力もものすごくて、「むしろここはこういう言い方のほうがこのキャラらしいです」って提案をくださったりして。監修に提出したはずが、セリフがブラッシュアップされて返ってくるようなこともあって、「ありがとうございます」ってなりました。
一同 (笑)
早矢仕この監修は本当にすごかったんですよ。ものすごい分量のある会話のファイルが毎日更新されていくんです。イズさんが各キャラクターについてすごく大事にされているのがわかって、我々も中途半端なものは出せないという感じでした。
─ 最近はシリーズが集合するゲームも多くなってきましたが、そういった作品間がつながるお祭り感もコラボ『無双』の楽しみのひとつですよね。
早矢仕はい。さらに我々の強みというのは、皆さんがこれまでプリレンダムービーでしか見たことのなかったクオリティのキャラクターを動かすことができるんです。しかもフルボイスで。
臼田タイトル数をしぼったぶん、各タイトルそれぞれに対して深く掘り下げることで、その3タイトルに出てくるキャラクターたちを深く愛せる会話が濃密にできるクロスオーバーを大事にしようと思いました。『FE無双』だからこそできた部分はそこだろうと思います。キャラ愛に関しては、もちうる限りの愛情を注いでいますので、そこが輝けるといいなと思っています。

登場タイトルと参戦キャラクターはこうして決まった

─ 今回3タイトルを基本にしたのはなぜだったんですか?
早矢仕兵種を使い分ける『無双』のゲームにしようとしたからですね。というのも、全部のシリーズから主人公を出していくとほとんどロードとかになってしまうんです。そうするとみんな剣になるので、キャラチェンジの戦略性も何もないねという話になったんです。そこで『ゼルダ無双』を3D三部作から選んだように、同じようなやり方で今回も選ばせていただくことにしました。つまり兵種の切り替えの遊びを重視したかったので、タイトルをしぼったという形です。…でも、ファンの方々同様、うちのスタッフも何名かは納得しなくて。
臼田その通りです。
一同 (笑)
早矢仕スタッフによっては「もうこのプロジェクトを抜けます」ぐらいのことを言われたりするほどの喧嘩になったりもしました。「早矢仕は『FE』をわかっていない!」とか、すごく言われましたね。しぼらないと遊びにならないから、私だって苦渋の決断だったのに!(笑)
─ キャラクターに思い入れがあるからこそですよね。どうやって納得させていったんですか?
早矢仕このゲームの評判が良かったら、次作もつくらせていただけるかもしれないと(笑)。だから今回はこれにしぼらせてくれって。
一同 (笑)
─ 結果現在の3タイトルになったんですね。
早矢仕はい。で、3タイトルの中に『新・暗黒竜と光の剣』を選んだ理由は簡単です。やっぱりマルスがいない『FE』は『FE』じゃないですよね。
─ たしかに。でも『暗黒竜と光の剣』ではなく、リメイクの『新・暗黒竜と光の剣』にしているのには何か理由があったりするんですか? 初代には3すくみがないからとか?
早矢仕それもありますが、デザインが『新・暗黒竜』ベースだからというのが大きいです。
臼田あと『新・暗黒竜』は海外でも発売されているというのもあります。まぁ、ここも難しいところでして、スタッフの中にはやはり初代がいいという人間もいたりして(笑)。でもオマージュの元としては初代を積極的に入れたりと、新なのか初代なのかはあまり気にしなくていいような内容になっていると思います。
─ 『if』は開発時の最新作だから選ばれるとして、あと1タイトルに『覚醒』を選ばれた理由は?
早矢仕3作を選ぶならと自然に決まりました。やっぱり『覚醒』は『FE』の要素を今らしく王道でつくった感じと集大成感というのが、我々もユーザーとして感じていたというのが大きいです。『ゼルダ無双』のときも3Dの3作を選ぶならと『時のオカリナ』『トワイライトプリンセス』『スカイウォードソード』にしましたよね。『ムジュラの仮面』も好きなんですが、3本を選ぶとなったら違うかなと。もちろん、今だったら『ブレス オブ ザ ワイルド』もあるので、3本を選ぶのも難航しそうですけど(笑)。ですので、今回の3本はすんなり決まった感じでした。
─ その3タイトルは、原作の物語のどの時点からクロスオーバーしてくるイメージなんですか?
臼田例えば『新・暗黒竜』ですから、マルスは英雄王にはまだなっていない状態です。原作を知らなくても楽しめるようにしてあるので、あいまいにはしていますが、そういったなんとなくの設定はしてあります。セリフとかストーリーから読み取ってもらえればと思います。
─ なるほど。実はいちばん気になっているのは『if』なんです。『インビジブルキングダム』まで終わった時点なのか、そうでないのかでいろいろと変わるような気がして。
臼田そうなんですよね。『if』はなかなか難しかったです。
早矢仕でも『暗夜』と『白夜』のキャラが仲良くしているのは違うなぁと。
臼田だからちょうど分岐するところのイメージです。さすがに、ルート分岐を確定させたあとの物語になると、「俺のカムイの道とは違う!」ってなってしまいますからね。
─ すっきりしました。そういえば、今回発表されたカムイは女性なんですね。
早矢仕カムイはあえて女にしたんです。今回発表したビジュアルが男だらけになってしまわないようにというのと、女性カムイの人気がすごく高いというところからです。とはいえ、3タイトルが決まってからも何のキャラクターを出すかで、また大変だったんですよ。
─ 大変ですよね。ユーザー側としても、そこが最大のポイントだったりしますし。やっぱり『ゼルダ無双』があれだけいいものだったので、「ゲームはおもしろい」と信頼している人がたくさんいると思うんです。だからこそ、みんなの焦点はより「何のキャラが出るのか」になっていくんですよね。
早矢仕それはありがたいんですけど、結構プレッシャーでもあるんですよ。
一同 (笑)
早矢仕選ぶのは本当に大変でした。最初は武器を考慮して弊社から提案したんですが、イズさんから人気投票結果なども教えていただいたり、任天堂さんからも「このキャラを出したい」とおっしゃっていただいたりして、少しずつ調整していきました。
─ 参戦キャラはシリーズから均等に出るんですか?
臼田均等というほど均等ではないですね。そのかわりといってはなんですが、コラボ『無双』第1弾にしては参戦キャラの総数は多いです。
早矢仕ゼルダ無双』をはじめ、ほかのコラボ『無双』では最初は8〜15キャラの間くらいなんですが、今回は大台を越えてみました。物量的には増えるので大変なんですが、ここは力を入れるべきだと思いまして。それでもファンの皆さんには足りないと思われてしまうので、もうしわけない気持ちはありますけど最大限頑張っています

生み出されたオリジナルキャラクターたち

─ オリジナルキャラクターであり主人公であるシオンとリアンについて、制作経緯を教えてください。
臼田ここ最近の『FE』の流れとして主人公が選べるというものがありますよね。
─ マイユニットしかり。
臼田はい。ですので、本当はキャラクターエディットをさせたかったんです。
早矢仕まさにマイユニットからやりたかったんですが、ムービーをたくさん入れたかったのであきらめました。主人公がエディットできてしまうと、ムービーに主人公を登場させられなくなってしまうので、主観視点ばかりの演出になってしまうんですよ。それで主人公をちゃんとつくることにしました。
臼田ほかにも『FE』は男性も女性にも幅広く遊ばれていて、性別ごとに異性や同性と仲良くなるといった、いろいろな楽しみ方もありますよね。なので、最終的には男女の主人公をつくることで落ち着きました。
─ デザイン自体はいかがでしょうか?
早矢仕すごく時間がかかりました。主人公ということは『FE無双』におけるロード像なので、ロードっぽくしようとは思っていたんですが。
臼田かといって、どこかのタイトルにデザインが偏ってしまうのも変なので、まずはそうならないイメージをたくさん出しました。
早矢仕で、そのイメージをいっぱい並べて「やっぱり青は激戦区だな」って。
一同 (笑)
─ 青はある種『FE』の象徴カラーですからね。
臼田アクセントとして青は入れないわけにはいかないけど、青に染めると埋もれるねという話になり、金と白をベースに青要素入れてかぶらないロードのデザインをしていきました。
─ デザインは社内でやられたんですか?
早矢仕はい。『覚醒』と『if』の2タイトルが入っているので、コザキユースケさんのデザインしたキャラクターがたくさん出てきますよね。ですのでベースとしては、そこに違和感のない絵としてまとめていく意図はありました。ただ『ヒーローズ』のほうでも兄妹で金ベースのキャラが主人公として出てきますよね。
臼田「これが今回のオリジナル主人公のシオンとリアンです!」って、任天堂さんとイズさんにお見せしたら、「実はこういう兄妹のキャラをつくっていて…」ってお話があって、発表前のキャラを見せてもらったんですね。そうしたら『ヒーローズ』のほうも金と白で、とくにシャロンとリアンは設定も含めてあまりにも似ていて…。
早矢仕「早矢仕さんたちも金できましたか!」って言われてね(笑)。なので、一度持ち帰り、そこから髪の毛を変えたりして調整していきました。
臼田修正はわりと大変だったんですけど、僕としては本家とかぶったのがすごくうれしかったんです。我々の考えていることは合っていたんだ! って。
一同 (笑)
─ シオンとリアンのキャラクター設定についてはいかがでしょうか?
早矢仕『FE』の主人公はロードで成長していく物語と言いながらも、みんなを率いていくじゃないですか。だから、わりと最初からしっかりしているキャラが多いんですよね。でも『FE無双』の主人公が率いていくのは、歴戦の英雄たちなわけなので、「俺がやるぞ!」ってかけ声にマルスとかクロムが「おー」って付いていくイメージは違うと思いました。そこで英雄たちよりも年下に設定し、少年が青年に成長する過程のなかで、英雄たちが助けてくれる内容にしていきました。
臼田なので王位を押し付け合うっていう子供臭いところからはじまります。そこから段階を経て成長していくんですよ。
─ 声優の内田さんがご姉弟で出演されているのも話題になっていますよね。
臼田実は実際の姉弟のお2人を双子の主人公にキャスティングしたのは、話題作りのためではないんです。声優さんを選んでいるとき、声優さんにはオーディションボイスとして、セリフをしゃべってもらっていたんですね。そのボイスを聞いて純粋に選んだだけなんです。結果的に話題にもなっているようで、よかったかなと思っています。
─ ユアナとダリオスについても教えていただけますか?
早矢仕ストーリーに関わってくるので、まだ詳しく言えないんです。ただストーリーについてもイズさんからだいぶご意見をいただいてつくっていますので、期待してください。
臼田ストーリーは『FE』の王道として違和感のないものを描いています。ユアナとダリオスについては、『FE』らしい物語を描くためには双子だけではちょっと足らないので、バックボーンを描くためにも登場してもらったという感じです。
早矢仕やはり双子は王族なので、親がいないと深みが増さないということでつくっていきました。

読者へのメッセージ

早矢仕『FE』ファンが求めているものは何だろうとずっと考えてつくってきたので、きっと満足していただけるものになっていると思っています。もし『FE無双』を遊んで、これまで自分には馴染みのなかったキャラクターなども好きになっていただけたなら、我々もつくってきたかいがあります。そして『FE』を知らない人も、今回は魅力的なキャラクターがいっぱい出てきますので、必ず誰かを好きになると思います。これから発売まで、まだまだキャラをいっぱい発表していきますので楽しみにしてください。
臼田『FE無双』ははじめから『FE』ファンのための『無双』であり、『FE』をずっと遊んできた人たちのためにつくると決めていました。システムも含めて、オマージュが各所にちりばめられています。また、『FE』を遊んでいるけど、アクションが苦手という人でも楽しめるよう、できるだけカジュアルに遊びやすくを意識してつくっています。『無双』を知らなくても遊べるものになっていますから、気軽に触ってみてほしいです。
プロフィール
回答者
(コーエーテクモゲームス)

プロデューサー
早矢仕 洋介
『ゼルダ無双 ハイラルオールスターズ』から引き続きプロデューサーを務める。


ディレクター
臼田 浩也
『ゼルダ無双 ハイラルオールスターズ』から引き続きディレクターを務める。